Gitanの趣味

ひたすら趣味の道を走っています(ニヤリ)

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彼女について――2 

 彼女はいつも何かを書いている。とはいっても彼女はプロのライターではない。仕事は持っているが、書くこととは何の関係もない仕事だ。さらにいえば、彼女には将来筆で身を立てようという野心は、見る限り少しもなさそうだ。
 他に言いようがないからそういうが、彼女が書くのはそれが趣味だからだ。音楽を除けば、彼女には趣味らしい趣味がない。彼女は変わり者である。友人も少なく、孤独である。ただ本人は孤独であることを少しも苦痛と思っていない。
 以前、『人間交差点』という漫画があり、そのなかに、ひたすら書き続ける作家の物語があった。作家は戦時中辛い体験をしていた。その体験が、膨大な作品群を作家に書かせた。ある日、作家の妻がどうしてそんなに書き続けるのか、少し休んではどうかという。すると、
「書いていないと気が狂う」
 と、原稿用紙にペンを走らせながら作家はぽつりと応える。書き続ける彼女を見て、その漫画を思い出した。書かなければ気が狂うほどの苦悩を彼女が抱えているとは思えないが、どうしても書かずにはいられない焦燥感のようなものを感じることがある。彼女は書き続けることで、心のバランスを保っているのかもしれない。
 彼女は無口ではない。それどころか非常な多弁である。彼女の書く文章は彼女の話し言葉に似ている。おそらく彼女にとって話すことと書くことに、大きなちがいはないのだろう。彼女には、自分の内部にあるあらゆることを語りつくさなければいられない一種の不健康さを感じる。
 書き続ける彼女を支えているひとつの柱は、その膨大な知識だ。いったい頭の中のどこにそれだけの知識が詰まっているのかと、驚嘆させられるほどの博学である。想像するに、彼女の頭の中にある膨大な情報は常に出口を求めて蠢いている。
 彼女の記憶は映像的である。彼女の頭のなかでは様々な映像が絶え間なく映し出され、尽きることがない。それを何らかの形で表現しないことには、心が安定しないのだろう。バランスを保つというのは、つまりそういうことである。
 彼女の書くものは様々だ。日記のような、エッセイのような、身辺雑記風のものから小説風のもの、読んだ本や見たドラマや映画の感想等々……あらゆるジャンルにわたっている。しかし、そこにあるのは、常に隠しようもなく彼女自身である。彼女は自分自身について語り続けている。
 決定的に何かが変だと、彼女を見ていて感じることがある。彼女は人づきあいが悪い。こだわりが強く、時に人を傷つけるようなことを平然と口にする。ひどく意地悪になることもある。誰といても、どこかが少しだけずれている。
 彼女が見ている世界は連続体ではない。虹のように、緩やかな変化の上に七つの色が浮かんでいるわけではない。彼女の虹は色がくっきりと分かれていなければならない。彼女にとって世界は、小さなパーツが組み合わされてできているパズルのようなものであるらしい。
 いつだったか忘れたが、書くというのはどういうことか、彼女に訊ねたことがある。目的も終着点もなく、ひたすら書き続ける人間の気持ちのようなものを知りたかったのだ。彼女は不思議そうな顔をしたが、それでも応えてくれた。
「パズルだね」
 意味がわからなかった。こちらの質問と彼女の返答の微妙なずれ。驚きも苛立ちもなかった。彼女はいつもこうだ。言葉は豊かだが、それは会話というよりも、独白だった。彼女のなかでは十分に応えているつもりでも、意味がわからないということはよくあることだった。
 彼女は一方的に喋りはじめた。書くということは彼女にとってパズルに似ているのだという。彼女には文章を綴っているという感覚がないらしい。空間に散らばっているピースを集めてきて隠されている絵を組み立てる。それが彼女の文章感覚だった。
 彼女にとって言葉は、抽象的な記号ではなく、文字通りパズルのピースのように、色と形をもつ、きわめて具体的な物体のようなものらしい。彼女は空間に散らばっている無数のピースを、観念上の手で拾い集める。そして絵を組み上げていく。
 空間に散らばっているピースに手を伸ばした時点で、自分がどんな絵を作ろうとしているのかはわかっている。はっきり見えていると彼女はいう。その点はまさにパズルだった。異なる点は、集めるべきピースが無限にあるという点だった。無数のピースの中から必要なものを選び出し、時にはそれを捨て、あるはずの絵に仕立てていく。
 その作業は彼女にとって、とても楽しく、すべてを忘れて没頭できる時間だという。今日も彼女は書き続けている。他人が踏み込めば迷子になりそうな広大な記憶の森の中を歩きながら、組み上げるべき絵を思い描き、必要なピースを探しているのだろう。
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Posted on 2010/09/25 Sat. 21:53    TB: 0    CM: 0

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