Gitanの趣味

ひたすら趣味の道を走っています(ニヤリ)

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公園の風景 

 彼との微妙な距離に気づいたのは座った後だった。公園の屋根のある休息所だ。手を伸ばせばとどくが、さりとてぴったりとくっつくような近さではなかった。まるで今の二人の関係のようだと彼女は思った。
「最近、どう?」
「どうって……」
「奥さんとはうまくいっている」
「そうだな、普通かな」
「前はうまくいってないっていったわ」
「そうだったかな」
「一年前はそういったわよ」
「そんなことをいったかもしれないな」
 彼女は彼を見て話していたが、彼は彼女を見ようとはしなかった。いつから彼はわたしを見ないようになったのだろう。思い出そうとしたが、できなかった。もしかすると彼がわたしを見て話したことは一度もなかったのかもしれない。そんなことを思ったりした。
「家内とはうまいくいっていないんだ」
 一年前、彼は確かにそういった。たぶん適当なことをいったのだろう。しかし、いまとなっては一年前のことなどどうでもよかった。彼女自身、あのときの彼の言葉をまるきり信じたわけではなかったのだ。
 ようするにすべては遊びだった。本気ではなかった。お互い家庭がある。捨てることなど考えたことすらなかった。彼とのことはちょっとした遊びだ。嘘をつくくらいの彼の方がいい。あとくされなく遊べる。あの時は、どこかでそんなことを考えてさえいた。
 最近、彼が変わったように思う。二人の関係に距離をおこうとしている。そんなふうに感じられるのだ。たとえばメールを送る。前は必ずかえってきた。いまは三度に一度くらいしか返事が来ない。彼のほうからメールが送られてくることも、いまや稀だった。ここ二、三ヶ月の間は一度もなかったはずだ。
 しかし、そのことは思えば自然なことだったのかもしれない。こんな関係がずっと続くはずがなかった。こんな関係は、どこかで終わらせなければならなかった。それは彼女にもわかっていた。
「わたしのこと、どう思っているの?」
「どうって……」
「煩わしい」
「そっちこそどうなんだ」
「わたしの質問に答えてよ。わたしに飽きた?」
「飽きはしないが……」
 彼の言葉が続かないことに、彼女はかすかな苛立ちを覚えた。
「飽きはしないがなによ――はっきりいって」
「飽きたりはしないが、普通になったな」
「普通? それってようするに飽きるってことじゃないの」
「どうだろう、おれはちがように思うけどな。おれの人生に君がいる。そのことが普通になりつつある」
「つまり新鮮じゃなくなったってこと」
「どうなのかな――人はどんなことにでも慣れてしまうから。でも、それは飽きたというのとはちがうよ。おれにとってはちがうんだ」
「わたしには同じことだと思えるわ」
「そうか――」
 彼は煙草をくわえた。
 人は時に絶対に手放してはいけないものを、くだらないもののために手放すことがある。自分が捨てようとしているものの百分の一の価値もないようなものがどうしてもほしくてたまらないときがある。人はときに理性の声に耳を塞ぐことがあるのだ。
 わたしは彼がほしいのだろうか。彼女は彼の横顔を眺めながら考えた。欲しいようでもあり、欲しくないようでもあった。ただ、このまま彼の思惑通りわかれるというのは、どうにも癪な気がする。彼女は少し意地悪な気持ちになっていた。
「わかれないわよ」
 彼女は彼から目を逸らしていった。
 すると、今度は彼が彼女を見た。
「わかれないから、わたし――」
 彼は黙っていた。彼女は彼の顔を見ないようにしていた。きっと困った顔をしているのだろう。彼の視線を感じつつ、彼女は黙っていた。少し困らせてやってもいい。簡単にわたしと別れられるなんて思わないほうがいい。
「大丈夫だよ」
 彼の声は意外に優しかった。
 彼女は彼を見て、思わず笑みを漏らした。

 半月後、彼女は失踪した。

     *         *

 と、これは妄想である。しかし、まったくの空想ででっち上げた風景ではない。もうかなり前のことになるが、愛知県のとある場所で、微妙な距離をおいて座っている中年のカップルを見たことがある。
 そのときのふたりが妙に心に残り、あれこれと妄想を膨らましているうちにこんな空想が浮かんだというわけである。あのときに見たふたりが、実際にそういう関係だったのかどうかぼくにはわからないが、楽しそうには見えなかったのも事実だ。
 男女関係のもつれから、取り返しのつかない事件に発展したという話はよく見聞きする。人は利口ではないと思う。もちろんぼくも含めてのことだ。SF作家の小松左京さんが人間は結局、お釈迦様がおられたころと何も変わっていないとなにかの対談で話していた記憶がある。
『黒の舟歌』ではないが、男と女の間には深くて暗い川があるのだ。あまり覗き込まないほうがいいのかもしれない。奈落を覗き込んでいると奈落に見つめられるという。人の心は簡単に闇に取り込まれてしまうものかもしれない。
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Posted on 2009/07/10 Fri. 10:37    TB: 0    CM: 0

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