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Gitanの趣味

ひたすら趣味の道を走っています(ニヤリ)

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彼女について――1 

 彼女は自分の強い個性に長く気づかなかった。では、今は気づいているのかというと、いささか怪しい。長く生きて、どうやら自分は人と何かが違うらしいということに、ようやく気づきはじめたが、それはあくまでも頭での理解であって、肌で掴んだということではなかった。
 彼女に限らず、だいたい人間は自分の目線で世間を見ている。自分の目線で世間を見る限り、自分が標準よりもずれた場所に立っていたとしても、ずれているのは世間の方だと人は感じる。
 彼女の場合は、長くそういうことすらも感じなかった。自分と世間、トラブルの原因をどちらかに求めることもなかった。従って、どちらが悪かなどとは考えたことがない。ただ、漠然とだが彼女は生きにくさを感じていた。
 たとえば自分が何気なく発した一言に相手が気分を害し、最悪怒りだすという経験を何度もしていた。いったい自分のなにがそれほど相手を怒らせてしまったのか、彼女には遂にわからなかった。
 たとえば誰かが、
「あなたは美人だね」
 と、彼女にいったとしよう。事実彼女は美人なのだが、とにかく誰かのその一言に、
「うん、子供の頃からよくそういわれた」
 と、彼女はまじめな顔でいう。
 相手は一瞬言葉を失う。確かに彼女は美人である。しかし、あまりにあからさまに本人にそういわれると、いわれた方は白けてしまう。そういう彼女の、一種の率直さが、彼女の生きにくさの原因の大半を占めていた。子供のころは、よく苛められた。
 自分が美人であるといったのは、彼女の傲慢さではなかった。実は自分が美人であるということを、意識したことすらなかった。美人がなんであるかはわかるが、自分と美人は彼女の中で重ならない。
 彼女が自分を美人だと認めたのは、子供の頃からそういわれ続けたからにすぎない。わたしは美人ということは、つまり、それ以上でも以下でもないのである。しかし、こういった態度が鼻につくのも事実だった。仮に、彼女に悪意はなかったとしても、だ。

 何事につけ、彼女は全体よりも細部が気になる。たとえば映画を見るとき、彼女は全体を見ない。もちろんストーリー全体を通しての面白さは感じるのだ。しかし、たとえ面白くない映画であってもその中にたったひとつ心に触れる場面があれば、その映画を好きになる。
 彼女は黒澤明の映画が好きだ。『まあだだよ』という作品がある。主人公とその妻女が掘っ立て小屋のような自宅で秋を迎える場面がある。その瞬間の色の美しさに彼女の心は震えた。
「黒澤明最後の作品は、見事に凛とした黒澤明だった」
 と、テレビで語っていたのは山田洋二だった。彼女は山田洋二の言葉を全面的に支持する。作品はもちろん素晴らしかった。しかし、仮に期待したほどの出来でなかったとしても、あの場面さえあれば、自分が何度でも『まあだだよ』を見るだろうことを彼女は知っていた。確かに黒澤明は最後まで黒澤明だった。

 彼女は抜群の記憶力を持っていた。山田洋二が、黒澤明についてテレビで話しているときの姿や身振りまで思い出すことができる。それはあたかもたったいまテレビでその番組を見ているかのようだった。山田洋二は、深刻な真面目さとでもいうべき表情と口調で、黒澤明について語っている。
「どんな監督でも老いとともに作品にたるみのようなものが現れる。それは老いとともに皮膚が弛んで行くような感じだ。どんな偉大な監督でもそれは避けられない。ジョン・フォードもエリア・カザンもヒッチコックもそうだった。しかし、黒澤明は最後まで凛とした黒澤明であり続けた」
 と、そんな感じであった。
 自分がハンニバル・レクターのような「記憶の宮殿」を持っているとは思っていなかった。だが、人から見ればそれに近いものがあるのもまた事実だった。ごく自然に話しているつもりでも、あらゆる事柄について、次々と彼女の中で連想が生まれていく。
 その連想はかつて見た映画であり、聴いた音楽であり、読んだ本であり、本屋で立ち読みをした雑誌であり、あるいはテレビのキャスターや芸人の言葉、ある役を演じている役者のセリフだった。
 彼女はお喋りである。だがそれは会話が上手ということではなかった。一方的に喋りまくるのである。頭の中に次々と浮かんでくる文字を、映像を、音を、とどまることなく話し続ける。聞かされているほうは、そのうち話す意欲をなくしてしまう。それでも彼女の話はとどまることがない。
「まるでインターネットで検索をかけたようだ」
 と、以前いわれたことがある。
 自分が特別なことをしているとは彼女は少しも思っていなかった。人と自分を比較する――あえて言えば能力に欠けている彼女は、自分の振る舞いが、かなり奇異に見えるということに長く気づかなかった。
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Posted on 2009/05/25 Mon. 19:09    TB: 0    CM: 0

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