Gitanの趣味

ひたすら趣味の道を走っています(ニヤリ)

 驚いたことに(ってべつに驚くこともないのだが)我が家には『葉隠』という本がある。いまさら『葉隠』についての解説もどうかと思うが、この本は江戸中期頃に出て、鍋島藩でずっと読み継がれてきた武士の心得について書かれた本だ。
 そして、このことも広く知られていることだが、『葉隠』は同性愛についても多く語られている。
 ちなみにぼくの手元にある葉隠は昭和三十九年徳間書店から出版されたものだ。訳者は神子侃氏である。神子氏も解説で、
「葉隠には男女間の恋愛についての話はほとんど出てこない」
 と述べておられる。女性との接し方ということで述べられている話は、不義密通についてのことで、どうも話が明るくない。
 妻が家来と不義をしている現場に遭遇して、妻を斬り殺したが、家名を守るために病死として届けた……というような話だ。気が重くなる。

 ところが男同士の恋愛については、かなり詳しく述べられている。
 若いころには男色関係でたいていのものが失敗をする。失敗といっても「一生の恥」となるような失敗ということであるから、どんな失敗なんだろうと思わず考えてしまう。が、とにかく失敗をするというのである。そこで失敗をしないためにも、心得(男性同士の恋愛について)が必要なのだがいってきかせる人がいない。だから自分が話す、という感じではじまっている。
『葉隠』の著者はいう。情を交わす相手は一生の間にひとりにすべきだと。そうでなければ、男娼や浮気女と同じことで、恥ずかしいことだ。ただ恥ずかしいのではない、武士として恥ずかしいといっているのである。
「念友のなき前髪は縁夫をもたぬ女にひとし」
 と井原西鶴の言葉を引いている。現代語訳にすると、
「いい交わした相手のいない若者は、婚約者のいない女性と同じ」
 ということになる。断っておくがこれは昔の話だ。それにぼくがこういうことを考えているということでもない。
 しかし、あの井原西鶴がこういった発言をしているところをみると、当時同性愛はごく一般的なものだったのだということが、いまさらながらによくわかる。限られた部分ではあるが、現代よりよほど風通しのいい点もあったのだ。
 年長の相手に対しては、五年ほどつきあって気持ちを見届けるようにすすめている。気持ちを見とどけたなら、こちらから交際を申しこんでもいいのだが――ここからが凄い――「互いに命を捨てあう後見なれば」つまりお互いのために命を捨てあう間になるのだから、よく心根を見とどけよといっている。こうなってくると、好いた惚れたも命がけだ。
 さらに、さらにである――ほかに言い寄ってくる者があれば、適当にあしらい、それでもしつこくつきまとうのなら、切り捨ててしまえというのである。
 いまの感覚からするとものすごく過激である。恋愛でなにもそこまでと思うのだが、そのあたりが『葉隠』の『葉隠』たる所以かもしれない。
 訳者である神子氏は、『葉隠』における男女の関係というのは「家」を維持するためのもので、我々の感覚でいう恋愛感情が許されていたのは、同性間においてであったのかもしれないと述べておられる。だからどうしても恋愛についての話も、男同士の関係ということになってくる。男同士の恋愛のほうが、当時は一般的だったのだろうか。

 はっきりと宣言しておきますが、ぼくには同性愛を忌避する感覚はまるでない。本当です。なぜかといえば、ぼくは昔から三輪明宏という人が好きで(丸山明宏の時代から)、この人の歌や発言を感心して聞いているうちに、同性間における恋愛感情というものが決して奇異なものではないと思うようになっていた。まだ子供だった頃、深夜放送にでた三輪さんは本当にかっこよかったです。『白呪』というアルバムが出た頃だったと思う。
「白というのは黒よりも怖い」
 たしかそんなことを仰られた記憶がある(もちろん、その前から『ヨイトマケの歌』に感動したときから丸山明宏という人の存在は知っていた)。とにかくその言葉を聞いて、なんて凄い感性なんだろうと思い、そこから三輪明宏氏のファンになった。はい、CDも持ってます(笑)。

 さて『葉隠』だが、いまのぼくには評価のしようがない。衆道の心得でも、忍ぶ恋でも、あの有名な「武士道とは死ぬことと見つけたり」でも、
「そうですか」
 というしかない。ただひとつ、これはファナティックに武士道を解いた本では決してないということはわかる。
 それともうひとつ思うことは、ぼくたちがテレビや映画で観る、いわゆる時代劇が歴史劇ではないということもわかってくる。『葉隠』もそうだし、朝日文左衛門の『鸚鵡籠中記』もそうだが、そこに登場する武士たちは、当たり前の人間だということも見えてくる。鬼平でも机龍之介でも眠狂四郎でもない。そういう時代劇が、視聴率を稼げるか、あるいは観客を呼べるかという大問題(笑)はあるにしても、ひとつくらい、同性愛がごく一般的な恋愛の形として認められていた時代を、正確に描いた時代劇があってもいいような気がする。
テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌
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