Gitanの趣味

ひたすら趣味の道を走っています(ニヤリ)

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影に怯える 

 彼について印象をきかれたとするとたぶんこう答えると思う。
「真面目な男ですよ、ええ、ほんと真面目。見習いたいくらいです。ちょっと変わったところはあるけれど、よくいえば天才肌ですね。悪くいうと? そんなこといえませんよ――どうしてもききたい、こまったなあ」
 たぶん、ぼくはここで苦笑いを浮かべると思う。でも結局はこう答える。
「変人ですね。中途半端なガリレオね。ガリレオ・ガリレイじゃない、ドラマのほらあったでしょう、浮世離れした物理学者が事件を解決するやつ。あそこまで賢くない。もちろん、あれはドラマですけどね、でもまあ、賢さは彼の十分の一くらいかな――とにかく変人です」
 と、まあこんな感じになるのではないだろうか。もちろん現実にこんなやり取りはしない。想像の中である状況を思い浮かべ、ドラマ風に仕立ててみただけのことだ。
 彼が真面目な男であるという一点は、彼が変人であるという事実と同じく、間違いのないことである。難しことを知っているくせに簡単なことがわからない。本当の話だ。いまは統計学に凝っていて、その関連のややこしい話ならいくらでもできるくせに、郵便局で、
「切符をください」
 と、やってしまった。局員も洒落のわかる人物で、
「切符なら駅の方でお求めください」
 と、返したらしい。
 これはその彼からきかされた話だ。
 彼は結婚している。子どもはいない。ずっと愛妻家だと思っていた。事実愛妻家なのだが、このあたりが男のばかなところで、別の女性のことを気にかけはじめた。職場の女性で、人妻である。仕事のことで話をしているうちに、もしかすると彼女はぼくに興味があるのではないかとそんな気になってきたというのである。
 このあたりのことは、しかし、あまりあてにならない。彼は非常に聡明な男だが、人の気持ちを理解することがひどく苦手なのだ。好かれていると彼は思っていても、他人から見れば別にどうということもない世間話をしているだけということもありうる。おそらくそうではないかとぼくは考えているが、二人が話している現場を見たわけではないので何ともいえない。
 とにかく、彼は相手に好かれていると思っている。勘違いだろうがとにかく彼はそう考えていた。
 人間好かれていると思うと、悪い気はしないものである。なんとなく相手のことが気になりはじめ、気がつくとしょっちゅう相手のことを考えるようになっていた。
 彼女は美人というわけではなかったが、独自の魅力のある女性だということだった。残念ながらぼくは彼女を見たことはないので何ともいえないが、彼にとってたいそう魅力的な女性なのだろう。
 彼は独自の想像力を持っている。相手の心を思いやることや相手の考えていることを想像するといったことは苦手だが、自己完結的な想像力については驚異的なものを持っていた。自分自身を主人公にした物語を考えるとき、彼の想像力は恐ろしいほど緻密に、そして鮮明に動きはじめる。この場合の物語とはなにも世間一般でいうところのドラマではない。彼にとっては――今凝っている統計学も立派なドラマなのだ。
 とにかく彼の想像力は並外れていて、どうかすると現実の方が色あせて見えるほどだった。彼女との深まっていく関係を想像すると、彼にとってそれは想像の域をあっさりと越えてしまい、あたかも未来の記憶であるかのような、定められた将来の出来事を思い出しているような、なんとも不可解な錯覚に彼を追い込んでいくのだった。
 妻はなにも気づいていないと彼は考えていた。
 そのあたりが彼のわからないところである。彼は自分が人の表情から思いを察したり、相手の立場からその思いを想像することが苦手であると知っていた。しかし、知っているからその点は注意しないといけない――といかないところが彼のような人間の厄介なところである。わかっているというのなら、彼はたぶんぼくよりも多くのことがわかっているはずだ。が、わかっているというこということと現実にそれができるということの間には、大きな隔たりがあるのもまた事実だった。
 妻はなにも気づいていないと彼は信じて疑わなかった。
 彼のなかで彼女への思いが日々強くなっていった。そんなある日、妻が実家に帰ることになった。彼の精神的な浮気に気づき、怒った彼女が実家に戻るということではなかった。実家に親戚たちが集まる用事があり、どうしてもそれに顔を出さなければならなくなったのだ。
 妻の帰郷は一週間ほどだった。その間、彼はひとりで過ごすことになった。ひとりになったからといって彼女との関係が特別なものになることは金輪際ないとわかっていた。それでも度々心に浮かんでくる不埒な妄想を彼は抑えようとしなかった。
 それが起きたのは、妻が帰ってから五日目の朝だった。
 その日、仕事は休みだった。その前の晩、彼は遅くまで起きていた。何かに没頭しはじめると時間を忘れてしまう癖があった。そのことではよく妻に注意されていた。
 だから、その休日の朝、彼の目覚めはいつもより三十分ほど遅かった。しかもすぐにおきなかった。冬で寒いこともあり、目を覚ましたが蒲団の中でぐずぐずしていた。目を覚ましてから二十分ほど過ぎて、彼はようやく蒲団から出ようと思った。その時だった。
「ねえ」
 間近で声がきこえた。それはいつも妻が寝ているあたりから、はっきりと聞こえた。彼は弾かれたように飛び起きて隣を見た。いつもならそこに妻が寝ている。そのときは誰もいない。空耳だったのか。しかしそう考えようとしても、聴いた声はあまりにも生々しく、とても錯覚とは思えなかった。聴いた声はたしかに妻のものだった。
 別に怖くはなかったよ。後でこの話をきたとき、彼はそう言っていた。が、その直後に起きたことは彼を少しだけ驚かせた。
 声を聴いたと思ってから、時間にして十数秒、あるいは最も短かったかもしれない。メールの着信音が、たったひとりの寝室に響いた。もちろん大きな音ではないが、それでもその電子音が、背中に突き刺さってくるように彼には感じられたという。
 メールは妻からのものだった。実は見る前に、妻からメールが届くとわかっていたような気がすると彼はいっている。
『大丈夫?』
 メールの文面はそれだけだった。
 どうして妻がそんなメールを送ってきたのかわからない。彼は少し考えて、返事を送った。
『大丈夫だよ』
 そこまで入力して彼は考えた。その一文を入れるかどうか迷ったのだという。少し考えて、彼はその一文をやはり入れることにした。結果、彼の返信の文面は、
『大丈夫だよ、ぼくはここにいる』
 と、いうことになった。
 それから二日後、妻は帰ってきた。何事もなかったかのようにそれ以前の暮らしに戻った。メールのことを妻は一切口にしたなかった。だから彼も触れなかった。どうしてあんなメールを妻が送ってきたのか、彼には理解できなかった。しかし、メールが届く前に彼は妻の声を聴き(彼は絶対に聴いたと主張して譲らない)、その直後にメールが届いたという、彼にとっての現実が、彼のなかにある何かを少しだけ変えたのはどうやら事実らしい。妻以外の女性に対する不埒な思いが、彼のなかから完全ではないが、薄らいだことはまちがいなかった。
 彼が思っている以上に妻は勘がよく、その勘はもしかする超能力の域にまで達しているのかもしれない。彼は見たままの現実を信じる男で、基本的に見えないものは信じない、あるいは信じられないタイプである。
 しかし、声とメールの一件以来、少し考え方が変わったようだ。いろいろと彼なりに考えたらしい。
 いま彼は自分のなかにある不埒な思いを懸命に抑え込もうとしている。うっかり想像力の暴走に身を委ねれば、そういった事実があるないに関わらず、災いが我が身に降りかかるような不安を抱えているらしい。彼の妻は大人しい女性だが、その大人しさの影にある、恐ろしいものを見たと彼は考えているようだ。もちろん、悪いのは彼だ。
 彼は妻の影に怯えている。
 もっとも男という生き物は、そのくらいでちょうどいいのかもしれない。
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カテゴリ: 日記

テーマ: 雑記 - ジャンル: 小説・文学

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Posted on 2012/01/31 Tue. 13:28    TB: 0    CM: 2

王の剣 

 とんでもないタイトルをつけてしまったが、何のことはない大河ドラマ『平清盛』についてである。何でも初回視聴率がワースト3に入ってしまったらしい。それはかまわない。ぼくは視聴率に興味がない。視聴率が高くても面白くないドラマはいくらでもあるし、その逆も、もちろんある。
 しかし、そのことと今回の大河ドラマが面白いかどうかはまた別の話しである。
 その前に、いきなり話はかわるが王によって引き抜かれる大剣はエクスカリバーと相場が決まっている。岩に刺さった大剣を引き抜くのはもちろんアーサー王だが、今回はそれが平清盛だった。アーサー王伝説をどこかで意識していなければあんな場面は出てこない――と思うが、どうだろう。平清盛をアーサー王に重ねて描こうとした狙いが製作者にあったように思えてならない。しかし、その狙いが成功したかどうかは、微妙だと思う。
 大河ドラマが『平清盛』に決まったときいたときに、真っ先に思い出したのが黒澤明だった。黒澤明は『平家物語』を映画化したかったそうである。タイトルは忘れたが、何かのインタビューでそう話しているのを読んだことがある。
『平家物語』ときくと古色蒼然という印象がぼくなどにはあるが、黒澤明にとって平家物語は『戦争と平和』だったようだ。平家の公達が戦って戦って戦い抜いて滅びていく。ぼくなどには琵琶法師が語る陰々滅々とした物語というイメージがあるが、黒澤明の頭の中では荘厳な悲劇がダイナミックに動いていたようだ。もし映画化されていれば、豪華絢爛だった『乱』の何倍もの華麗さとリアリティを併せ持った映像だったかもしれない。そう思うと撮ってもらいたかった気がする。今回の『平清盛』を眺めつつ、その思いをいっそう強くした。
 NHK大河ドラマの『平清盛』はどこかで黒澤明が描きたかった『平家物語』を意識しているような気もするが、このあたりは素人の勝手な思い込みである。素人の勝手な思い込みであることを承知でいえば、リアリティのある平安時代を背景に荒々しい武家の棟梁としての清盛像は、もしかすると生きていれば黒澤明が描いたかもしれない『平家物語』の一場面であったかもしれないという気がするのだ。
 時代劇を観るときの僕の悪癖は、黒澤明をどこかで意識してしまうことだ。NHKが描く今回の平清盛は、黒澤時代劇テイストの背景に、アーサー王伝説からちょいと場面を拝借して、従来通りのNHK大河ドラマのストーリーで構成した。そんな感じである。従って、もしこのドラマに問題があるとすれば、汚い平安ではなく、ご都合主義のストーリーではないかと考えたりする。
 幼い清盛が屋根に上れば追いかけてきた弟が落ちて、義母の本音が剥き出しになり、傷ついて街に出れば、かつて義父が殺した盗賊の子どもにばったり出会い出生の秘密を聴く。雨にうたれてしょぼくれていると、彼の惨めさを引き立てるように野良犬が走っていく(ちなみに雨で惨めさを強調させたのも黒澤明で『素晴らしき日曜日』のときにこれをやったと記憶している)。やっと雨が上がったかと思えば今度は自分の可愛がっていた犬の死体を発見する。大泣きしていると、そこに都合よく彼を探していた義父が現れ、
「弱いから死んだのだ! お前は弱い犬だ!」
 とか叫び、いきなり大剣を引き抜いて、
「どうだ! 抜いてみろ!」
 といわんばかりに地面に突き刺して去っていく。で、後はアーサー王伝説である。いったい何をしたいのだろう……。
 ここまで材料を揃えて、この展開はないだろうと思えてくる。画面が汚いという批判もあるらしいが、リアルな平安を描こうとした心意気はけっこう好きだ。以前、このブログで実録忠臣蔵を観てみたいと書いたこともあり、リアルな時代劇――というか時代劇と歴史劇の中間に位置するようなドラマを見たいとは思っていた。
 ではあるが、せっかくここまでやって悲劇も喜劇も、あまりに都合よく訪れる展開は何とかならないかと思えてくるのだ。
 このドラマに足りないものは、本当はなんだろう。ずっとそれを考えている。

カテゴリ: テレビドラマ

テーマ: 大河ドラマ - ジャンル: テレビ・ラジオ

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Posted on 2012/01/11 Wed. 08:58    TB: 0    CM: 0

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